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2023.7.18

特別客員教授ヒグチアイ氏特別講座『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』を開催

特別客員教授ヒグチアイ氏特別講座『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』を開催  2023年6月29日(木)、本学東キャンパス2号館大アンサンブル室にて、ヒグチアイ氏による特別講座『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』を開催しました。  本年度、音楽領域の特別客員教授に就任したシンガーソングライターのヒグチアイ氏は、2歳のころからクラシックピアノを習い、その後ヴァイオリン・合唱・声楽・ドラム・ギターなどを経験、様々な音楽に触れ、圧倒的な説得力を持って迫るアルトヴォイスとピアノの旋律、本質的な音楽性の高さが業界内外から高い評価を受け、大型フェスへの出演も果たしています。そして2022年、TVアニメ「進撃の巨人」エンディング曲として書き下ろした『悪魔の子』が大きな反響を呼びました。  特別講座では、最初に「ドームライブ5万人が感動するような合唱」というテーマが与えられ、全員で合唱することとなりました。  「なぜ合唱させるのか?」は後ほど語られることとなりますが、参加者をソプラノ、アルト、テナーに分け、ピアノ、指揮も参加者から募り、各パートに分かれての練習の後、まず1度目の合唱。映像を確認した後、「さらに5万人足して10万人を感動させられるか考えながら練習してほしい」というリクエストで、再度全員が話し合います。  この話し合いの最中、ヒグチアイ氏は各パートの練習スペースを回り『どのように学生が考え取り組んでいるか』をチェックします。  そして2度目の合唱を終え「1度目より断然良くなったと思いませんか。話し合いの際、出る言葉をはっきり言ってみようとか、 子音を強く出してみようとか、同じような意見だったというのがすごく印象的でした。」というコメントをいただきました。  そして、この合唱を踏まえ『合唱して、どういう気持ちになったのか』を、感情をマップ化したものに当てはめる作業を3人一組になってディスカッションします。  その結果を発表後、「合唱した理由」や「感情をマップ化した理由」について、  「一通りやり終わったな、という後に何をするかというのがすごく大事。そこまで行ったら大体90点ぐらい。でも、そこから10点上げるにはどうしたらいいのか、やることがなくなったところから何をしたらいいのかということに、すごく意味があるような気がします。自分がその場でできることを探していくことを皆さんにやってもらいたくて、合唱してもらいました 」と語りました。  そして、ヒグチアイ氏自身の話へと続きます。  「音楽というものをすごくやりたい人間でした。けれど、 SNSで否定的な意見を言われることがあり、人前に出るのは好きじゃないかもしれないと思うようになりました。だけど、何かやりたい。じゃあ、まず自分がやりたいことって何なんだろうと考えた時に、自分の感情に言葉をつけたい人間だったんだなということに気づきました」。  そんな経験から『やりたくない』と思ったときに考えたこと、その考えを今回の合唱への取り組みに繋げて、  「どうしたらやりたくなるかと思った時に、 今までは完璧な音楽を届けなければいけないと思っていたけれど、そこにライブの楽しさを持ってくるのではなく、みんなの笑顔を見たいからやってみようとか、何か感情を持って帰ってもらえるんだろうと思えるようなライブ作りをしていこうと考えを変えていきました。だから今回の合唱を通して、どうせやらなければいけないのならば、どうしたら自分がやりたくなるんだろうというポイントを探してもらいたかったんです。そのポイントを探してくれた人たちに『やりたくない』にぶつかった時に、どうしたらいいのかという道が開けたのではないかなと思っています」と語りました。  そして、講座のテーマである『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』について、挫折など自身のいろいろな経験を通して、  「自分の感情に言葉をつけたいということが自分のやりたいこと。自分の経験にあるものを全部組み合わせて、誰よりも最強になっていくというのが私のやり方。 やりたいこと、知っていることは、やったことの中にしかないんです。その経験を広げるという意味で、いろんなことを皆さんにやってもらいたいなと思っています。得意なことをやりたいことに寄せていく。やりたいことを得意なことに寄せていく。それをなるべく全部 1つにしたい。やりたいことも得意なことも両方欲しい。そういうふうになるべく自分を変えていくということをしていたので、やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのかというのは、やりたいことも得意なこともどちらも仕事にできる、していくというのが私の答えです」と締めくくりました。  そして自身の未発表曲のデモ版が披露され、学生にアレンジを依頼し、それをレコーディングしたいという、嬉しい提案がありました。こちらは後期の講演の課題となります。

2023.7.7

特別客員教授 宮川彬良氏の公開講座「クインテットの舞台裏」を開催

特別客員教授 宮川彬良氏の公開講座「クインテットの舞台裏」を開催  2023年6月22日(木)、特別客員教授 宮川彬良先生による特別公開講座「クインテットの舞台裏」を開催しました。「クインテット」はNHK教育テレビで放送された子供向けの音楽教養番組。2003年4月7日から2013年3月30日までの間、平日の午後5時50分から放送された10分間の番組で、多くの学生も子供の頃に親しんだ、学生の世代にとって思い出深い番組です。  今回の特別講義では、そのクインテットの制作のいきさつをお話しいただきました。講義は、先生方と学生(Tub. 水野はるかさん)によるテーマ曲“ゆうがたクインテット”の華やかな演奏で始まりました。  番組の構想は、放送が始まる1年前、2002年4月から始まったといいます。プロデューサー 近藤康弘氏(「おかあさんといっしょ」を担当、プロデューサーとして「ハッチポッチステーション」を制作、「クインテット」ではフリーのプロデューサーとしてかかわる)、脚本・構成を担当する放送作家 下山啓氏、そして宮川彬良氏の3人で8ヶ月もの間話し合いが行われ、どんな番組にするか、なにを伝える番組なのか、といった番組の骨子が決められたといいます。  このとき、ポイントとなったのが“世界観”。演奏する音楽や番組の構成など具体的な部分はすぐに思いつきますが、それよりもなぜ登場するキャラクターたちが演奏するのか、なぜその楽曲なのか、必然性がしっかりしていないと、番組そのもののクオリティに大きく影響することになり、その要となる“世界観”が必要だと説明します。「楽器を練習することは義務や命令ですることではなく、それこそが遊びであり、音楽そのものが遊ぶことである」ということを伝えたい、そのために自身も含め登場するキャラクターはすべて“精霊”だという案が出てきたといいます。そして、番組の中では語られませんでしたが5名のキャラクターはすでに亡くなっている設定で、生まれた町や年齢もばらばら、しかし、かつては音楽家やその卵であり自分の歌いたかった歌を歌い演奏する、全員、もう一度音楽を楽しみたいという共通の思いを持った魂、という世界観を作り上げます。そう決まると、あとはすべて人形のデザインも、一人一人のキャラクターも、番組の構成も、なにもかもがすんなり決まったと説明します。  重要なこととして、音楽に限らずすべての芸術は、人間の生命につながっているのでは、と宮川氏はいいます。「命は誰もが持っているもので、一番大事で、一番摩訶不思議で、そして一番エネルギッシュなもの。僕の持っている世界観はすべて命につながるものです」と述べ、今後、学生らもなにかを創作するときには参考にして欲しいと説明しました。  話を終えたあと、クインテットの1回分、10分間を全員で視聴し、番組のクオリティの高さと宮川氏の想いを再確認しました。最後の質疑応答では、さまざまな質問が挙がりました。遠く、長野から見に来られた方もおり、クインテットの思い出を語り合ったり、収録での苦労や番組内で使われた音楽についてなど、番組ファンとの交流会のような和やかな時間となりました。  音楽と、その裏側にある想いと、そしてユーモアにあふれる、素晴らしい講義となりました。 今回の講義で紹介された単行本「アキラさんは音楽を楽しむ天才」は、こちらでお求めいただけます〈Amazon販売ページ〉 「クインテット」NHKアーカイブ 「クインテット」DVD販売ページ〈NHKスクエア〉

2023.4.12

卒業制作展記念講演会 OSRIN氏「どんぐりのせいくらべ」

卒業制作展記念講演会 OSRIN氏「どんぐりのせいくらべ」  卒業制作展 50回記念講演会の最後は、本学ライフスタイルデザインコース卒業生でもある映像作家OSRIN氏。2023年2月26日(日)に「どんぐりのせいくらべ」と題し、卒業してから現在に至るまでクリエイターとして感じてきたことや映像制作の実際についてなど、さまざまな事柄についてお話しいただきました。  2013年卒業のOSRIN氏は、学生にとって年齢も近く身近な存在でありながらも、King GnuのMVなど一連の仕事は憧れの存在でもあります。会場となった体育館には多くの受講者が集まりました。  講演では、自己紹介から始まり、若い頃の感情・経験、今の思考までさまざまな話をして頂けました。  OSRIN氏の大学在学中は、ホストクラブでアルバイトしながらライフスタイルデザインコースで課題をこなしていたという異色の経歴。映像を作る専攻でないものの映像制作会社へ就職、ADとして映像制作現場の雑務をこなしつつ自分がやりたい仕事ってなんだろうと考えた3年間だといいます。2016年にPERIMETRONの作品をリリース、そこからの6年間で200案件を超える作品を制作。  この10年間を振り返ると「映像を作るコースでもなかったのに映像でメシを喰っていけるのか、いろいろなことが不安だった。誰々はどこどこへ就職したとか、どこそこへインターンへ行ったとか、誰々の給料はどれぐらいとか、聞きたくもない話ばかり気にしてしまい、複雑な思いでいた」といいます。今回の講演では、そうした気持ちを寓話にし紙芝居にして説明していただきました。  背をくらべるどんぐりたちと、それを見下すようにあざ笑う北風、さらに北風さえも包み込むような山、3者の視点の違いともいうべきお話です。「北風ってじつは自分のことで、数年前まで自分がそんな感じだったと思う」といい、他者と自分を比較することに嫌気が差し、くらべるという行為自体を見下すようになってしまっていたといいます。「見下すということは、その人たちと自分をくらべていることになってしまっていて、矛盾していると思うようになり反省した。くらべることは、人のことを肯定的に見たり、客観的に自分を愛せたり、そうしたこともできる」と比較することをポジティブに捉えることで、この10年間やってこられたと説明します。否定せずしっかりと捉え直すことが切磋琢磨を生み、より良いものを生み出すことにつながっていくと説明し、これから社会へ出る学生たちに、不安があっても生き抜いていって欲しいとエールを送りました。  このほか、King Gnu 「カメレオン」のMVのコンセプトや絵コンテなど具体的な映像制作の実際も紹介、作品の裏側にある思いなども紹介していただきました。  質疑応答ではたくさんの質問が挙がり、アイデアが出ないときにはどうしていますか、という問いには「自由に作って良い場合などテーマが広すぎると考えにくい。誰に伝えたいかターゲットを絞ることでアイデアも絞り込まれ考えやすい。誰に喜んでもらうかを考えること」と回答。参加した高校生からの、どういう気持ちで芸大に入って、どういう気持ちで卒業したかを教えて、という質問には「高校時代、進学するつもりはあまりなかったけど、拾ってもらえて入学、目標もなく過ごしていた。ただ漠然と友達と一緒に働きたいという気持ちがあった。手に入れたカメラで親友の誕生日の映像を作り、それを見て飛び跳ねて喜んでくれて、自分も泣いて、みんなで泣いたことが映像制作の始まり。映像って強すぎると感じた。大きな目標もないままだったけど、誰かのために映像を作って、あんな気持ちをもっと味わいたいというのが動機になっていると思う」と映像制作に携わるようになったきっかけなども紹介していただきました。  「誰かのためになることをどう見せるか、映像でもグラフィックでも紙芝居でも同じで、アウトプットが異なるだけ。それにこだわってやってきたことがこの10年だった」とまとめ、講演は終了となりました。

2023.4.1

卒業制作展 50回記念講演会 千住博氏「学生の皆さんに伝えたいこと/創造の現場より」を開催

卒業制作展 50回記念講演会 千住博氏「学生の皆さんに伝えたいこと/創造の現場より」を開催 ※講演部分は音声のみとなります。  卒業制作展 50回記念講演会第1弾として、2023年2月7日(火)日本芸術院会員である画家 千住博さんをお迎えし「学生の皆さんに伝えたいこと/創造の現場より」という演目でお話しいただきました。千住氏は、1995年創立100周年のベネチア・ビエンナーレで東洋人初の名誉賞を受賞、以降イサム・ノグチ賞、恩賜賞、日本芸術院賞など数々の賞に輝きます。作品はメトロポリタン美術館、ブルックリン美術館、シカゴ美術館をはじめ、国内外の主要美術館、薬師寺、出雲大社などに収蔵され、高野山金剛峯寺、大徳寺聚光院の障壁画も担当するなど、現代を代表する日本画家であり、現代アート作家でもあります。  講演のテーマとして、「類型のない作品を生むにはどうしたらいいか?」「コンテンポラリーアートとは何か?」「伝統と革新はどういう関係か?」「世界で活躍するにはどうしたらいいか?」「どうやったら個性は磨けるか?」、とこれらの命題を掲げ自身の経験とたくさんの映像を織り交ぜながら、考えをお話しいただきました。  アートについて深く考えるようになった転機として、2013年に制作された大徳寺聚光院の襖絵「滝」を挙げ、聚光院には国宝である狩野永徳の花鳥図があり、その隣に自分の襖絵が並べられることになったことについて「永徳と比較されたら敵うわけがない。歴史的にも最高峰であり、勝負にならない。伝統的な美術の世界でこそ求められてるのはコンテンポラリーアートではないか。類型にとらわれず、比較されない形で自分を展開する気持ちで制作しよう。自分が美術史のどの流れにある作家であるかを自覚しつつ、前例にない仕事をやっていこう」という考えに至ったといいます。  この命題を前置きに、旧石器時代のショーヴェの洞窟壁画にはじまり、中世、西洋絵画の父と呼ばれるジョット、ルネサンスのボッティチェリとミケランジェロ、続きダビンチと同時代の狩野永徳、さらに尾形光琳、浮世絵の北斎と広重、洋画に戻り印象派、その延長として現代アートのはじまりであるデュシャン、その流れからウォーホル、ラウシェンバーグ、そしてダン・フレイヴィンやウォルター・デ・マリア、アンゼルム・キーファー、ゲルハルト・リヒターといった現代の作家までの作品と背景をかけ足で説明します。  通常、解説される美術史の説明に加え、同じ作家としての立場からの視点と背景の考察がユニークで、非常に興味深い内容です。  旧石器時代の壁画からは「観察と記録」という絵画の機能にはじまり、「時間と空間」を意識していたと指摘、中世の絵画からは見えないものを見えるようにし始めたこと、さらにルネサンスや狩野永徳、印象派からは時代背景に対して社会の希求を見いだします。こうしたなかから芸術の役割として「ないものを指摘し、あるべき世界を示す」ということを挙げ、「美とはなにか?」という問いには「生きていて良かった、元気が出たと、生きるということに対して前向きになる気持ちを感じさせる働き」が美であり美的感動だと説明します。「美は生きることを肯定し応援する感性である」と結論付け、生きていくための本能であるといいます。優れた芸術の要件として「プロセスが見えること」を挙げ、絵画に限らずすべての領域の作品でプロセスが見えることが、芸術と工業製品を区別する要件の一つと説明します。「類型のない作品を生むにはどうしたらいいか?」という問いには、「地球上、また歴史上においても自分とまったく同じ人は絶対に存在しない。つまり、自分自身のすべてを画面に出せば、類型のないものが必ずできる」と説明し、その上で「美術史上のどの文脈の流れに中に自分が位置しているか、という自覚」が大切といい、それがないと美術史的に宙に浮いてしまうと説明しました。「類型のない作品を生むためには、過去を知ることが大切で、伝統は、常に類型のない新しいものの積み重ねである」と説きました。最前線で制作する作家として、現在考えていることを漏らさず伝えていただいたように感じました。  ものの見方と論理的な制作の思考は多くの示唆に富み、非常に有意義な講演となりました。