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2024.11.21

カーデザインコース、特別客員教授 永島讓二氏の講座を開催

カーデザインコース、特別客員教授 永島讓二氏の講座を開催  カーデザインコースでは、2024年11月6日(水)、7日(木)の2日間にわたり、特別客員教授の永島讓二さんをお招きし、特別講座を開催しました。  永島讓二さんは、ドイツ・ミュンヘン在住、オペルAG、ルノー公団、BMWと欧州カーデザイン界の第一線で長く活躍するカーデザイナー。ルノー・サフラン(1992-1998年)、BMW Z3(E36/7)、3シリーズ(E90)、5シリーズ(E39)などを担当、また、カーグラフィック誌にてコラムを連載するなど多岐にわたる活躍をされています。  加えて、今回の講義では、一昨年までカーデザインコースで教鞭を執った高次信也先生、また、ゲストとしてカースタイリング誌 編集長の難波治さん(元(株)SUBARUデザイン部長、東京都立大 教授)も加わり、学生作品の講評会と演習を行いました。  1日目、11月6日は、学生が制作したカーデザインの講評会が行われました。テーマはあらかじめ与えられていた課題、過去の名車を、現代または未来にあわせてモディファイしてデザインするというもの。どのクルマを選ぶかも課題の一部となっており、車種の選択もそれぞれにゆだねられています。2年生から4年生まで17名の学生がデザインを一枚のボードにまとめ、場合によってはクレイモデルも制作してプレゼンテーションを行いました。なぜこのクルマを選んだか、どの部分がアイデンティティになっているか、そして、それをどう処理したか、じっくりと説明します。  永島さんの講評では、そのクルマが作られた時代や背景、そのデザイナーがほかにどんなクルマをデザインしたかなどもコメントされ、デザインにとどまらず文化や歴史にまで話題は及びます。もちろん、デザイン画の見せ方や描く技術にも言及されました。思考のプロセスを見せることが重要とする言葉が印象的で、ラフに描いた絵でも段階的に見せるものを高く評価していました。  また、一見、上手く描けている絵でも、形が曖昧になっている部分を指摘、形のイメージがしっかりできていないと見抜かれます。あらためて、デザイン画は、絵として上手い下手よりもアイデアを明確に伝えるためのものであることが納得できます。  講評会は、たっぷりと時間を取って延長して行われ、クルマと絵と文化を味わうような、贅沢な時間を過ごしたような有意義なものとなりました。  2日目は、講義と演習です。まずは高次先生からバイクのデザインについての講義が行われました。オートバイがいかに進化してきたかを、レオナルド・ダ・ヴィンチの自転車の概念から始め、モーターの導入、世界初の量産モーターサイクルの誕生、第二次世界大戦後アメリカのカウンターカルチャーとの関わりなど、順を追って説明されました  日本のバイクメーカーの成功についても触れられ、ホンダのスーパーカブがアメリカ市場でヒットし、日本メーカーが世界シェアを拡大していった歴史を振り返ります。バイクの構成要素やレイアウトの違いに触れ、クルマのパッケージングとは異なるレイアウトの概念が強調されました。バイクはすべての部品が外から見えるため、構造の美しさと機能性のバランスが重要であると説明されました。  現代では、エコロジーや快適性に加え、ライディング体験を重視するようになってきているとといわれ、ライダーと一体になって操作することで楽しさが生まれ人と機械がシンクロする感覚が重要だと強調されます。  近年のデジタル技術の進化によりデザインのプロセスは効率化されていますが、実物モデルで確認することの重要性を説き、デジタルのメリットと手作業の精密さを上手く組み合わせることでより高度なデザインが成り立つことから、手作業の重要さをあらためて強調しました。  続いて、永島さんの講義では、課題からの流れでカーデザインにおけるレトロデザイン、古いクルマから伝わるデザインの再解釈について説明、現代のデザインにどのように受け継がれているかを解説されました。  クラシックな要素を持つルノー アルピーヌ A110、Mini、ダッジ チャレンジャーといったモデルを過去の名車を元にした新しいデザインの事例として挙げられ、現代の技術やスタイルに合う形で再解釈されていること指摘しつつ、上手くいっているかそうでないかを皆で考えました。  単に過去の形状やデザインをそのままコピーするのではなく、現代的なエッセンスを融合しながらもオリジナルの特徴やシンボリックな要素が生かさすことで新しいデザインを作り出すことが肝要と説明されました。  講義の後半では、就職活動に向けたポートフォリオの作成に関するアドバイスも行われました。メーカーへの応募で特に評価されるポイントとして、昨日の講評会でも指摘のあった、アイデアのプロセスを示すことが重要だと挙げられました。また、デジタルとアナログの両方を組み合わせた構成が望ましいとし、デジタルで作成した3Dモデルだけでなく、手描きのスケッチやマテリアルのサンプルなども併せて提出することが効果的であると説明されました。  講義の終了後は、学生が質問したり、ポートフォリオを見ていただきアドバイスをもらいました。また、ポートフォリオだけでなくクレイ工房で制作中のモデルを見ていただきアドバイスもいただきました。  学生にとっては、世界で活躍されたデザイナーに作品を観てもらう貴重な機会となり、有意義な特別講座となりました。

2024.10.31

名古屋芸術大学 ALPs × SLOW ART LAB「Edible Classroom 食の小さな循環 ~それぞれの農と小さな道具たち~」 開催

名古屋芸術大学 ALPs × SLOW ART LAB「Edible Classroom 食の小さな循環 ~それぞれの農と小さな道具たち~」 開催  デザイン領域では、2024年3月に名古屋市栄にオープンしたアートセンター「SLOW ART CENTER NEGOYA」と連携し、2024年10月20日(日)~27日(日)「Edible Classroom 食の小さな循環 ~それぞれの農と小さな道具たち~」と題し、名古屋近隣の農業にかかわる6組を取材、それぞれの農のありかたや食べる(料理する)人とのかかわりを調査、インタビューを冊子にまとめ、農をめぐる関係性を図示し使われている道具などを展示しました。  展示にあわせ2024年10月26日(土)には、食育活動を推進するエディブルメディア代表の冨田栄里さんをお招きし、エディブルメディアの取り組みや「持続可能な生き方のための菜園教育—エディブル・エデュケーション」の創造と発展をミッションとするエディブル・スクールヤード・ジャパンの活動についてお話しいただきました。  Edible Classroomでは取材・調査のほか、6月からSLOW ART CENTER NEGOYAの屋上で野菜作りも行っており、それらの報告も行われました。  担当するデザイン領域 小粥千寿准教授は、学生が食の生産者へのインタビューを通じて食の循環やデザインの役割について考えるプロジェクトと説明し、フィールドワークで実際に現場に出て人々と触れ合い生の声を聞く経験をすること、食への理解として小規模な生産者との交流を通じて生産から消費までの過程を深く理解し食の循環の大切さを学ぶこと、さらにデザインの役割として食に関する問題を解決したり新たな価値を生み出したりできることを実感することの3点を目標にしたといいます。最終的な展示の型式や道具に着目することなどはインタビューを重ねる中で次第に見えてきたもので、リサーチをしながらアウトプットを少しずつイメージしていく過程を実体験を通して学べたのでは、とプロジェクトをまとめました。  プロジェクトに参加、取材とリサーチを行った、ライフデザインコース3年 鴨下ゆうさん、長岡知里さん、メディアコミュニケーションデザインコース 3年 伊藤怜奈さんに取り組みと感想を伺いました。  「初めに取材が中心となると聞き、取材やリサーチみたいなことがやってみたかったので、軽い気持ちで参加しました。私は、普段スマホやモニターを見てばかりの生活をしていますが、家の周りや身近な場所で畑をやっている人がいます。これまでそれほどかかわりを持っていませんでしたが、とても興味がわきました。自分のことは自分でやるみたい考えがありますが、突き詰めると自分の食べるものも自分で作る、自分の生活を考えることに食べることも大きくかかわっているんだなとあらためて思いました。土に触ることはこれまでありませんでしたが、そうしたこともいいなと思うようになりました」(鴨下ゆうさん)。  「メディアコミュニケーションコースではなかなか取材するような機会は少ないと思い、私もフィールドリサーチをやりたいと参加しました。リサーチを始め、最初の頃は最終的にどんなアウトプットをすればいいか何も想像できないままでした。インタビューされる人も何が聞きたいんだろうというのもありますし、自分たちも何を聞き出せばいいのか手探りで、いろいろ考えながら進めて来ました。皆さん本当にいっぱいお話してくださって、まとめるときに広がりすぎたかなという反省があり、どの部分をクローズアップするかで苦労しました。プロジェクトを通して、野菜自体はすごく身近にあったんですけどその先の野菜育ててる人の考えに触れていなかったことに気が付きました。野菜や野菜作りを身近に感じるようになりました」(伊藤怜奈さん)。  「私は1年生の頃からフードドライブのボランティアに参加していて、 食に関するデザインとそのリサーチだと聞き、興味もあるしやってみたいと参加しました。取材することは初めてでしたが、取材に協力的な方がすごく多くて本当に助かりました。道具の展示を考えたのは、江南市のharutona farmに伺ったとき、林さんがキュウホーという除草器具がすごく良くてもっと広めたい、とおっしゃっていたのがきっかけです。小学生の頃は、芋掘り体験や野菜を育てたりすることを楽しく感じていたのに、中学、高校と上がっていくと農業イコール汚れることや虫がイヤみたいなことになっていくのはなぜだろうと考えました。農業にかかわる人に会い、実際にやってみると楽しいんですよ。一度離れて、大人になったら一周まわって楽しくなった、そうした道のりも楽しかったなと思います。たぶん、農業大学や農学部みたいに農に近い立場じゃないから気が付けたのではと思います。自分のステップアップにもなったように思います」(長岡知里さん)。  屋上菜園の野菜作りを行ったライフスタイルデザインコース 2年生の窪田晴さん、吉田優之介さんは、「うまく育っていくことのことに対して幸せを感じました。なんか嬉しいんですよね、ちゃんと育ってくれるのが。今、パプリカとかいっぱいなってますよ」(吉田優之介さん)、「野菜を作ったことなかったので、新鮮な感じです。普段スーパーで買ってたものがこうやって育つ、実際に食べることができることも面白いなって感じました」(窪田晴さん)と充実した表情。  トークイベントでは、エディブルメディア代表の冨田栄里さんに小粥千寿准教授がお話を伺う型式で行われました。  エディブル・スクールヤード・ジャパンの活動として米国カリフォルニア州バークレーにある「エディブルスクールヤード」の取り組みを基にして日本の学校で菜園作りや有機栽培の給食導入を支援していることを説明していただきました。また冨田さんは、ある参加者がバークレーで食育関連の活動に興味を持ち、映画『エディブル・シティ』を日本に紹介・翻訳する活動をしたいということで協力して始めたことなど、映画配給の経緯についてお話しいただきました。日本での上映は特にコロナ禍で再注目され、食の重要性や市民主体の持続可能な生活への関心を高める役割を果たしているといいます。映画やワークショップを通じ、地域のコミュニティガーデンでの野菜栽培や収穫を体験しながら、食の循環を学ぶ機会を提供し、学生への映画上映などで食育が次世代の教育にどう役立つかなどお話しいただきました。  最後に、デザインの力を活用し食や環境に関する意識を向上させることにも言及され、どんなメッセージを伝えたいかデザインというスキルで何を発信できるか、社会にかかわることを大事に考えて欲しいとまとめました。

2024.7.30

テキスタイルデザインコース、メタル&ジュエリーデザインコース 客員教授対談「愛知県の伝統産業をヨーロッパ市場へ、世界で通用するブランドデザイン」

テキスタイルデザインコース、メタル&ジュエリーコース 客員教授対談「愛知県の伝統産業をヨーロッパ市場へ、世界で通用するブランドデザイン」  デザイン領域テキスタイルデザインコース、メタル&ジュエリーコース(2024年度1年次入学生から工芸コースへ移行)では工芸分野の領域横断による連携を行っています。  今年度は、これまで長くテキスタイルデザインコースでお世話になっている株式会社スズサン CEO クリエイティブディレクター 村瀬弘行氏、メタル&ジュエリーコースに、GRAFFシニアデザイナー、元ロレンツ・バウマー、ルイ・ヴィトン、ヴァンクリーフ&アーペルなどのジュエリーデザイナーである名和光道氏を客員教授にお迎えし、2024年7月2日(火)に特別講義を行いました。  お二人とも、名古屋市が主導する地域に根ざしている伝統産業をその技術とアイデンティティを活かしながら世界に発信していく伝統産業海外マーケティング支援プロジェクト「Creation as DIALOGUE」にて、クリエイティブディレクター/トータルコーディネーター(村瀬さん)、デザインアドバイザー/コミュニケーションコーディネーター(名和さん)と重要な役割を果たしています。今回の対談では、Creation as DIALOGUEを始めるまでの経緯と、ヨーロッパから見た有松絞りや尾張七宝といった伝統産業の価値についてお話しいただきました。お二人ともヨーロッパ在住であり、ドイツ デュッセルドルフ(村瀬さん)、フランス パリ(名和さん)をオンラインでつないでの対談となりました。  講義は、扇千花教授、米山和子教授により、テキスタイルデザインコース、メタル&ジュエリーデザインコースが、それぞれ有松絞りと尾張七宝にどのようにかかわってきたか、経緯の紹介から始まりました。  テキスタイルデザインコースが有松絞りと連携を始めるのが2005年。その頃には扇教授は村瀬さんとも出会っていたといいます。2009年に本格的に板締め絞りの授業を始め、有松とのかかわりが蜜になっていきます。村瀬さんには「後継者問題の改善と産地の活性化」というテーマがあり、産学連携がさらに深いものになっていき現在の「有松絞り 手ぬぐいブランドプロジェクト」へと発展していきます。連携に参加した学生が有松にて起業をしたり、卒業生がSuzusanへ就職するなど、人材の輩出も大きな功績といえます。  メタル&ジュエリーデザインコースは2019年から尾張七宝と連携を始め、あま市七宝焼アートヴィレッジでも授業や安藤七宝店のショップ・工場見学などが始まります。2021年に名古屋市は Creation as DIALOGUEを開始、名和さんは安藤七宝店とコラボレーションし「J.ANDO」を立ち上げます。2023年には学生作品を安藤七宝店栄店に展示し、安藤七宝店とCreation as DIALOGUEを軸に、名和さんとメタル&ジュエリーデザインコースとのかかわりが始まり現在に至るとのことです。  対談の前に、村瀬さん、名和さんから、自己紹介とこれまでやってきた仕事について紹介がありました。  村瀬さんは、2003年に大学で学ぶため渡欧、Die Kunstakademie Düsseldorf(デュッセルドルフ/ドイツ)で立体芸術と建築を専攻、テキスタイルやアパレル、有松絞りとは関係のない領域を専門としていました。当時のルームメイトが、たまたま部屋に置いてあった有松鳴海絞りの布地に興味を示し、あらためて魅力に気が付いたといいます。すでにその頃には、職人さんの数も減りどうすれば次の世代に伝統的な技術をつないでいけるか問題を認識し、Suzusanの立ち上げにつながります。村瀬さんは、「Material」(素材)、「Technique」(技術、有松絞り)、「Way of use」(用途)の3つを考え、綿以外の素材を染色することで絞りを洋服へ転用、また、ランプシェードやインテリアへと用途を見直すことで、絞りの可能性を範囲を広げています。こうしたことで生活の中に絞りを取り入れられるようにし、次世代へとつなげられるようにしたいと説明しました。  名和さんは、工芸高校でデザインを学び、デザイナーとしてグラフィックやファッション、建築などに携わりたいと考えていたといいます。インテリアデザインの会社で働き始めるも、自分のキャリアや先の展望が見えないことに不安を持ち退職。家具やインテリアに関連するということでパリへ渡航、自分が本当にやりたいことを考えたといいます。そんなとき、ロンドンで行われたティファニーの展覧会を見て衝撃を受け、ジュエリーデザイナーを目指します。カルティエとヴァンクリーフ&アーペルの写真集を買い、アルバイトをしながら写真集のジュエリーの模写などから独学でデザイン画を描き、1年ほどかけてポートフォリオを作成。アポイント無しでロレンツ・バウマーに持って行った所、翌日から研修生として入れてもらえたといいます。「パリに行って、そこでいろんなことをやって生きている人がいて、こんなに人生は自由でいいんだ、夢を追っていていいんだ、と変わりました」という言葉が印象的です。「10年後の自分はどうなっているかわからない、試行錯誤しながら悩んで頑張っていくうちに道が開ける」と学生らに応援しつつ、自身を振り返りました。  後半はいよいよ対談、ヨーロッパでお二人が出会うところから始まります。「1点もののハイジュエリーをデザインする世界に、日本人がいるということに驚いた」(村瀬)、「1枚写真見たときからすごいなと。そのとき展覧会の準備していて、たぶん、次の日には連絡したと思います」(名和)と、お互い認め合う存在。名和さんから「職人が1年も2年もかけて作るもの、世界に1個のものだから、違うブランドに似てるものはダメ、今までにあるようなものはもちろんダメ」とハイジュエリーのデザインの考え方に始まり、仕事の特異性と面白さ、また発想の源など、ハイジュエリーデザインの仕事の実際について紹介していただきました。ここではお見せできませんが、名和さんの貴重なデザイン画も見せていただきました。村瀬さんからは「デザイナーって華やかな仕事と思われがちだけど、内部調整とか事務的なことがものすごく多くて、職人さんに無理いってやってもらったり、人とのコミュニケーションする仕事」と仕事をする上でのデザイナーとしての共通点や、「日本人ということで信用してもらったり、面白がってくれたことを感じますね」(名和)と、ヨーロッパの中で日本人や日本文化がどう見られているか、といったところまで話は広がりました。「若いときに、自分の生涯をかけてやりたいと思うことに出会えたのは本当にラッキー」(村瀬)、「テクノロジーが進んでそっちが最先端と向かっていっていますが、そのカウンターとして世界中で手仕事が見直されてきているように思います。すごくこれからもチャンスがあると感じています」(名和)と話題は大きく広がりました。  質疑応答では、「デザイン画が立体になるとき思っているのと違う感じになることは?」「デザインするとき、実現可能なものから考えるのか、理想から考えるのか?」「目上の人や職人さんに自分の意見を伝えるとき、どんな点に気を付けているか?」「商品を手にするお客さんに、作品から感じて欲しいことは?」と、デザイナーとしての考え方や仕事のやり方、業務でありながらも自分のやりたいことなど、デザインの仕事を考えるうえでの有用なアドヴァイスをたくさんいただきました。「着心地いいとか、色が好きとか、気分がポジティブになるとかっていうところから買ってくださるのは大事。ただ、その先にある手仕事だとか、ものづくりにかかわった人だとか、産地だとか、そういったところまで想像してもらえるように今後も心がけていきたいです」(村瀬)と締めくくり講義は終了。地域の伝統産業が持つポテンシャルを感じさせ、可能性を感じさせる刺激的な特別講義となりました。

2024.7.10

「愛知県×名古屋芸術大学連携事業 あいちアール・ブリュット作品展」 ギャラリートークを開催

「愛知県×名古屋芸術大学連携事業 あいちアール・ブリュット作品展」 ギャラリートークを開催  2024年6月14日(金)~25日(火)、西キャンパス Art & Design Center Westにて、愛知県との連携事業「愛知県×名古屋芸術大学連携事業 あいちアール・ブリュット作品展」を開催しました。最終日の25日には展覧会にご協力いただいた特定非営利活動法人愛知アート・コレクティブ、社会福祉法人あいち清光会障害者支援施設サンフレンドから関係者をお招きし、ギャラリートーク「アール・ブリュットの時代」を開催、学生をはじめ多くの観覧者で賑わいました。  この展覧会は、先に締結された「」に基づくもので、障害者アートに直接触れて理解を深め、自身の作品作りに生かすことや芸術の知識を生かした障害者芸術文化活動の支援者となることを目的として開催されました。会場のA&D Center Westには、山本良比古氏(1948-2020 絵画)、小寺良和氏(1957- 陶芸)をはじめとした、あいちアール・ブリュットを代表する作者15名の作品50点以上を展示、大規模な展覧会となりました。 愛知県と県内3大学との障害者芸術文化活動の推進に関する協定  ギャラリートークでは、はじめに愛知アート・コレクティブ代表理事 鈴木敏春氏からアール・ブリュットの歴史についてお話しいただきました。1928年(昭和3)千葉県に知的障害者施設「八幡学園」が創設され、そこに図工の時間が設けられたことが障害者芸術文化活動の始まりといいます。初代園長である久保寺保久氏が「裸の大将」として知られている山下清氏を見いだすなど大きな功績をあげ、障害者アートの世界が開かれます。久保寺氏の、それぞれが持つ良い点を伸ばそうと「踏むな、育てよ、水をそそげ」という言葉が非常に印象的です。愛知県では1952年(昭和27)に県内初めての特殊学級が名古屋市立菊井中学校に開設され、後に山本良比古氏の指導を行う川崎昂氏が赴任します。1980年代から徐々に社会的にも障害者アートは認知されるようになり、1999年(平成11)に「生(いのち)の芸術フロール展」、2007年(平成19)「第1回 ふれあいアート展」、そして、2014年(平成26)に「あいちアール・ブリュット展」が開催されます。鈴木氏は、第1回から企画・作品展示に携わり、障害のある人の表現は美術の世界を変えていくようなエネルギーを持っていると、アートの可能性に語り、これまでの取り組みについて紹介しました。  続いて、社会福祉法人あいち清光会障害者支援施設サンフレンド 末松グニエ モルヴァン氏、竹田印刷株式会社 アートディレクター 安井和男氏に、作品について解説していただきました。参加者とともに会場を巡り作者の経験やこだわりなどを説明し、作者を尊重しつつ作品として成立するようサポートする支援者としての立場も説明していただきました。参加者からの質問を受けながら、盛況な作品解説となりました。  展覧会に訪れたコミュニケーションアートコース 4年 石川清菜さん、浅井優菜さん、城所ななみさんには、次のような感想をいただきました。 「今回の展示を見て、どの作品も非常に個性的であると感じました。特に印象に残ったのは、小早川さんの作品です。彼女の作品は、自然や植物の爽やかさが感じられるものでした。色の使い方や重ね方が作品ごとに異なり、とても魅力的でした。私も小早川さんの技法を参考にし、色の重ね方を工夫してみたいと思います。」(石川清菜さん) 「整えられた線や形というより、スケッチのように、その時の感覚や景色がそのまま作品に落とし込まれている印象があり、その活き活きとした雰囲気に惹かれました。私は現在アニメーションを主に制作していますが、下書きやスケッチの線を活かしたような作風で今後制作してみたいと思いました。」(浅井優菜さん) 「展示会全体を鑑賞し、不自然な硬さも不自由さもない作品だと感じました。子供特有の柔らかな描写と、経験を積み重ねた技術力が両立した面白い作品ばかりで大変楽しかったです。その人その人のこだわりが分かりやすく、追求していく大切さを感じました。今回の展示会を通して、今一度作品作りの楽しさを胸に制作をしていきたいと思いました。」(城所ななみさん)  作者の気持ちや考えを素直に表しているような作品たちに、大きく刺激を受けたように感じられました。

2024.5.14

先端メディア表現コース 空間コンピューティングデバイス「Apple Vision Pro」体験会と特別講義を実施

先端メディア表現コース 空間コンピューティングデバイス「Apple Vision Pro」体験会と特別講義を実施  2024年5月7日(火)、先端メディア表現コースでは、VR/ARコンテンツの企画・制作・運用を行うイクスアール株式会社 代表の蟹江真氏をお招きし、この2024年2月にアメリカで発売されたばかりの空間コンピューティングデバイス「Apple Vision Pro」をお持ちいただき、体験会と“XR”についての特別講義を行っていただきました。先端メディア表現コースの学生、メディアデザインの院生、またデバイスに関心のある講師も新しいデバイスを体験しました。  はじめに、蟹江氏が自己紹介と「XR講習 ~XRの初歩と今~」という題目でお話しいただきました。イクスアール株式会社は、これまでバーチャルトレーニングシミュレーター、産業向け実践教育XRなどヘッドセットを使ったコンテンツを企画制作してきた企業。代表の蟹江氏は、2014年に初めてゴーグルを使ったVR(仮想現実)を体験、仕事にしたいと感じ個人会社を設立、プロジェクトを立ち上げアイドルの撮影などさまざまなコンテンツを制作してきたといいます。マイクロソフトのHoloLensというシースルーのヘッドセットを使い、製造業や教育現場の作業手順やトレーニングを行うサービスの提供を行い、これまで本を読みイメージすることしかできなかったトレーニング環境を体験的に学べるようにしたり、現場でマニュアルやチェックシートを見ながら確認できるようにするなど、ヘッドセットを実社会で活用するような業務を行っています。  今回は、イクスアール株式会社から、まだ日本で発売されていない「Apple Vision Pro」を2台、さらに2023年10月に発売された「Meta Quest 3」も併せてお持ちいただきました。Apple Vision Proは購入のため蟹江氏がアメリカまで赴き入手した国内ではまだ貴重ものです。「XR」についての講義では、これまでの仮想現実と端末の進歩を簡単に説明していただきました。XR前提として、まず現実の世界RE(REAL ENVIROMENT)があり、そこにスマートフォンやタブレット、グラス型などの機器をつかい情報を付け加えて見せるAR(AUGMENTED REALITY 拡張現実)、逆に仮想の世界に現実のものを付け加えたAV(AUGMENTED VIRTUALITY 拡張仮想)、すべてが人工のVR(VIRTUAL REALITY 人工(仮想)現実)の4つがあり、仮想と現実を混在させるARとAVがMR(MIXED REALITY 複合現実)に分類されます。MRは仮想の世界に閉じるのではなく現実の世界と融合した世界であり、MRと仮想世界のVRをまとめ、現実では知覚できない新たな体験を創る技術の総称が、XR(EXTENDED REALITY)であると説明します。コンピューティングの進化とともに伸びてきた歴史があり、今後、さらに発展が見込まれれ、その最先端にあるのが現状ではApple Vision Proということです。  体験会では参加した学生がかわるがわるヘッドセットを装着、使用感を確認しました。視線の動きがカーソルになるためセットアップに手間がかかりますが、操作自体はAppleらしいインターフェースで使いやすく、ヘッドセットに慣れた学生は違和感なく使い始めていました。まだ利用できるアプリが少ないため、3Dフォトや動画を確認したり、ブラウザを操作する程度にとどまりましたが、操作のしやすさや画面の美しさや見やすさに可能性を感じるという声が聞かれました。また、Meta Quest 3も併せて起動し、使い勝手の違いを確認しました。先端メディア表現コースには、現在2台のMeta Quest 2があり自由につかえるようにしてありますが、新しいMeta Quest 3を体験した学生からは解像度に驚きの声が上がり、こちらも有意義なものとなりました。  今のところ、産業用の用途のほか、メタバースやゲームなどでコミュニケーションツールとして使われることの多いこうした機器ですが、新たな用途での可能性を感じさせる体験会と特別講義になりました。

2024.3.26

OSRIN氏による映像制作特別講義「GAME CHANGE」講評会を開催

OSRIN氏による映像制作特別講義「GAME CHANGE」講評会を開催  今年度、デザイン領域では特別客員教授に映像作家・アートディレクターのOSRIN氏を迎え、「GAME CHANGE」と題して全4回の特別講義を実施しました。OSRIN氏は、King GnuのMV「白日」をはじめ、米津玄師、Mr.ChildrenのMV、数々のCMを手がけるクリエイター。そのOSRIN氏から、直接、学ぶことのできる貴重な機会であり、コースを超えて映像制作に関心のある学生が講義に参加しました。  4回の講義は、オンラインを中心に行われました。1回目の講義は2023年7月、この講義の主旨と制作する映像についての説明がありました。まず、タイトルは「GAME CHANGE」とし、自身も創作することと他者と協働することで変わってきたと説明し、この講義での体験が人生を変えるきっかけになればといいます。加えて、制作する映像について要件を説明しました。1つ目は「見たことのないもの」。見たことないものは、誰が見たいものなのか、見いたことないものは見たいものでなければいけないこと、と考えに含みを持たせます。2つ目は「グループを作って制作すること」。どうしても個人でやりたいという希望があればそれでもいいとするものの、基本的にはグループで協働することを望み、また学年も入り交じったグループであって欲しいと説明します。実際に社会で働くときは年齢やキャリアに関係なく、多くの人とかかわりながら仕事を進めます。同じように異なった学年でグループを組むよう指示がありました。3つ目は「企画書を制作すること」。すべての作品は企画書からはじまり、企画書によって予算が決まります。企画書は人を説得するものであり思考のプロセスでもあるといい、企画書なしで良い仕事はできないと説明。企画書作りを課題としました。1回目の講義では、このあとOSRIN氏が書いた企画書を公開し、企画書の要点を説明しました。また、映像を専攻していない学生のために映像フォーマットについて説明し、最終的に2分以下の映像を制作するよう課題が出されました。  2回目、3回目の講義は、学生からの企画書に対して添削するような形で行われました。感想とともに企画書の面白い部分を膨らませるようアイデアが書き込まれ、ブラッシュアップされていきました。企画書は、コンセプトとどのようなものを作りたいのかを説明する必要があります。また、制作する作品のイメージを伝えるムードボードも重要です。「企画書は自分のやりたいことを伝え、人を口説かなければいけないもの」とし、伝え方は千差万別、良い方法は企画によっても、また、人によっても異なるものと説明し、よく考えて作って欲しいと企画書の重要さを唱えました。たしかにOSRIN氏の企画書はユニークで、決まったフォーマットがなく、それぞれに見た目も構成も異なります。また、企画書自体に創作的な部分が盛り込まれていることも特徴的です。「自分が面白いと思うこと」をしっかり書いて欲しいと学生に伝えました。  そして、いよいよ最終の講義を2024年3月1日、OSRIN氏をお招きしB棟大講義室にて制作された映像をスクリーンで映写し、講評会を行いました。制作された映像は5本、Aチームは明坂悠叶さんの企画を基にしたアニメーション「寝つきが悪い」、Bチームは平松篤音さんの企画で「時間屋」、和田夏希さんの個人作、歪み興行の巡業ツアーを追った「どうしたいのかどうするのか全部自分」、Cチームは鈴木美砂さんの企画「ただ、漂う、ヒト」、Dは二人チーム、須賀さんと梛野さんの企画で「airy」。それぞれに作品を楽しみながらの講評会となりました。  OSRIN氏は作品の出来映えを讃え、面白い点をコメントしていきます。同時に、使ったほうが良いツールや制作上注意すべき点などのアドバイスも加えます。講評で印象的だったのは、共同作業による軋轢の指摘すること。共同で制作する限り100%自分の思い通りにはできません。気に入らない部分を指摘し合い、しっかりとディスカッションすることが実際の仕事では不可欠です。そうして作品が良くなるわけですが、チームに遠慮があると自分の考えを伝えることはできず譲ってしまいます。そうした不満な点を残したままでは、納得できる作品は生まれません。そうした対立を説明し、そのことを実体験することがこの講座の目的のひとつでもあり、そのことを糧にしていって欲しいと伝えました。  総評として「どの作品もとても面白かったです。単位を取るのに必死だった自分の学生生活とくらべると、自由参加で手間のかかる映像の制作をするだけでも本当に凄いと思います。自分で活動する、こうしたことが自分にはありませんでしたが、社会に出てからとても大切なことだと気付きました。それをぜひ学生時代に体験して欲しかったです。楽しいことを仕事にする、これは難しいことに思えますが、楽しいと感じることができればとてもシンプルなことです。自分の道を信じて、ぜひ挑戦して欲しいと思います」と学生たちを応援し、講義は終了となりました。

2024.3.6

名芸卒業生トークイベント「私の出発点~そういえば、原点(ルーツ)は、名芸だよね」

名芸卒業生トークイベント「私の出発点~そういえば、原点(ルーツ)は、名芸だよね」  2023年度卒業制作展記念講演として、2024年2月23日(金)に、本学卒業生の田中里奈さん(アーティスト、2012年 洋画2コース卒業、非常勤講師)、伊集院一徹さん(南伊豆新聞・南伊豆くらし図鑑 編集長/イラストレーター 2011年 ライフスタイルブロックデザインマネージメントコース卒業 )、佐藤ねじさん(プランナー/アートディレクター 2004年 デザイン造形実験コース卒業)の三氏による、「名芸卒業生トークイベント 私の出発点~そういえば原点(ルーツ)は、名芸だよね」を行いました。  ファシリテーターをスペースデザインコース 駒井貞治教授、コミュニケーションアートコース 松岡徹教授、現代アートコース 吉田有里准教授が務め、ユーモアを交えつつ和やかな雰囲気のトークショーとなりました。はじめに、現在どんなことをやっているかそれぞれのプロフィールの紹介、その後、4つの質問に答える形で進められました。  田中里奈さんは、これまでに制作した作品を紹介しながら作品のモチーフとなっているお寺など作品の背景となっている考え方、記憶に頼って制作していること、遠近法や配色など複数の表現技法を混在させている現在の創作について紹介してしていただきました。  伊集院一徹さんは、学生時代に芸祭実行委員長を務めたことから話を始め、就職したものの仕事内容と自分のズレを感じつつ、南伊豆で地方創生事業に関わり移住、起業して編集者、イラストレーターとして地域メディアを立ち上げたことを説明。コロナ禍で仕事がなくなったときにそれまでの経験を漫画にするなど、さまざまな働き方をしているといいます。  佐藤ねじさんからは、プランナーとしてやってきた仕事として、一晩かかって人狼ゲームをするホテルの宿泊プラン、子供服の企業と協力して親が助かる子供服の「アルトタスカル」、赤ちゃんが一緒にいないと遊べないゲームなど、自由でユニークな発想から生まれている数々の仕事を紹介していただきました。  自己紹介のあと、Q1.大学ではどんな学生だった? Q2.就職とか、将来どうなりたいと思っていた? Q3.卒業制作の思い出は? Q4.学生へのメッセージ、の4つの問いに答える形でトークは進められました。  田中里奈さんからは「学生時代、絵で悩んでいると吉本作次先生が、直接話すのではなく、刺激になりそうな画集をアトリエの隅に積んで置いてくれるんです。私がいないうちに、小人が出てきてやってくれたみたいに積んで置いてくれて、自分の作品に取り入れていったというのが、すごく印象に残っています」。  伊集院一徹さんは「ライフスタイルの萩原先生はとても怖かった(笑)。課題なんかも、できてるのか? ハイ!できてます、と答えてその日に徹夜したりだとか。そういうやりとりを重ねた学生時代でしたね」。  佐藤ねじさんは「僕は、今でいう先端メディアかな、プログラミングとか映像をやっていました、津田先生ですね。劇団と二足の草鞋だったんで、課題ばっかりでもなくそれほど怒られることもなく、メディアデザインは良いコースでしたよ(笑)」と笑わせました。  会場には、洋画コースの吉本作次教授、 ライフスタイルデザインコース 萩原周教授、先端メディア表現コース 津田佳紀教授の姿があり、「おかしいな……(笑)」(萩原教授)といった声が漏れる一幕もありましたが、それぞれの恩師との温かな交流も会場を和ませました。  「学生時代から作家になるつもりでいたので就職活動しなかった」(田中里奈さん)、「本当にわからないという感じ。5年前でも、自分がゲストハウスをやっているとか、まったく思ってなかった」(伊集院一徹さん)、「宣伝会議の本を開いて、ここに載っている会社なら大丈夫みたいな感じで入って、ぜんぜん面白くなくて。学生時代に面白かったことでぴったりの職業ってなかなかない。自分も20代は迂回した感じです」(佐藤ねじさん)と人それぞれに惑いながらも、自分の学んできた基本に立ち返るようにして今につながっているといえます。  学生時代にやっておいたほうが良いことについては「ブライトンに留学して、海外の美術館を見てきたことは本当によい経験」(田中里奈さん)、「気になることがあったら行く、そこで一次情報、リアルな情報をとることですね。そこで出会う人、どこで繋がるかわからない」(伊集院一徹さん)、「定年が60歳だとすると40年あるじゃないですか、40年後のこと考えると正解なんか絶対にわからない、正直AIとかでめちゃくちゃ変わる。何が武器になるかわからない。でも人間であることは変わらないので、基本的なことが大事では」(佐藤ねじさん)と、誰もが経験したことや人との出会いを大切にしているといいます。  駒井教授は「名芸のポテンシャルをあらためて感じました。皆の情熱みたいなものもすごく感じます。先輩後輩のつながりなどさらに強くしていくことも、今後も大事にしていって欲しいと思います」と締めくくりました。

2023.12.12

サウンドメディア・コンポジションコース、深田晃氏、峯岸良行氏による公開講座「3D Audio Workshop 2023」を開催

サウンドメディア・コンポジションコース、深田晃氏、峯岸良行氏による公開講座「3D Audio Workshop 2023」を開催  サウンドメディア・コンポジションコースでは、2023年12月2日(土)西キャンパス2号館大アンサンブル室にて、非常勤講師 深田晃氏、峯岸良行氏による公開講座「3D AudioWorkshop 2023」を開催しました。  これまで、映画作品や劇場で採用されていた立体音響技術が発達し、近年では、Apple Music、Amazon Musicなどではドルビーアトモス、また、Amazon Musicでは、360Reality Audioフォーマットの3D Audio配信が始まっています。今回の公開講座では、BENNIE Kなどの作曲、プロデュース、Little Glee Monsterなどミックスエンジニアとして多くのアーティストの作品に携わり、多くの3D Audio作品の制作を行ってきた峯岸良行氏、ドラマ、ドキュメンタリー、映画のサウンドトラックや番組テーマ音楽、N響やサイトウキネンオーケストラなどのレコーディングに携わり、独自サラウンド収録方法である「Fukada Tree」の考案者として広く知られる深田晃氏といった、3D Audioの第一線で活躍する両氏に制作のノウハウを具体的に講義していただきました。また、学生が制作した3D Audio作品を試聴し、今後のオーディオ表現について体験して考える、盛りだくさんの内容となりました。  会場となった大アンサンブル室には、株式会社ジェネレックジャパン(スピーカー)、タックシステム株式会社(モニターコントローラー)、アイシン高丘株式会社(スピーカースタンド)にご協力いただき、ドルビーアトモス7.1.4のリスニング環境を構築。3D Audioを60人程度の人数で同時に体験できるように準備しました。  講義の前半は、峯岸良行氏によるドルビーアトモスのポップミュージックについてのワークフローが紹介されました。近年では、ドルビーアトモスをはじめとした立体音響については、「3D Audio」「Spatial Audio」などさまざま呼び名で使われていますが、いずれも没入感の強いオーディオを意味するもので、総称して「Immersive Audio=イマーシブ オーディオ」と呼ばれるようになってきました。その中でもApple Music、Amazon Musicではドルビーアトモスを採用し配信も行われています。今回のワークフローでは、ステムミックスファイルの音声をApple Musicで配信可能なドルビーアトモスのフォーマットにミックスする作業を実演して見せていただきました。ツールの設定に始まり、ステムミックスから位相差やバンドパスフィルターを用い複数の信号に分解しそれらを3D上に配置していくテクニックやミックスの手法と、作業の手順を追って実演いただきました。  深田氏からは、映画音楽やオーケストラなどの3D Audio制作について、レコーディングスタジオやホールでの実際の収録例を紹介いただきました。また、中盤では、深田氏のアイデアで、実際に3D Auido録音のトライを「この場で行う」ということで、Sax 早川ふみ氏・Pf 藤井浩樹氏によるSaxDuoを録音し、すぐに7.1.4のスピーカーから再生するということを行いました。そして参加者はその録音を体感することで、「客席にいるリスナーではなく、演奏者と同じ音楽体験をできるように」や、「録音は正確性ではなく、空気感やダイナミックな躍動感などをより心理的、感覚的に訴えていくものでなければならない」という氏の考えを実際に感じることができました。  興味深いのは、深田氏と峯岸氏のイマーシブオーディオの考えの違い。今回の峯岸氏の講義では2chステレオをベースに3D Audioを構築していったのに対し、深田氏は収録から7.1.4chを意識して収録していきます。センタースピーカーやリアスピーカーの使い方が大きく異なり、深田氏の録音はリスナーが演奏者の間に座って聴いているようなこれまでに感じたことのない音場です。耳馴染み良く楽しい峯岸氏のミックス、まさに新しい体験を感じさせる深田氏の録音、どちらも新しい音楽の体験でとても魅力あるものです。同時に、業界最先端のお二人でも3D Audioの在り方に対する考えがさまざまあることがわかり、「音楽をリスナーに伝え、さらに新しい体験を生む」という音響表現の最前線に触れたように感じられました。  講義の後は、学生作品の講評会です。4年生 武藤夢歩さんによるピアノの録音「スクリャービン24の前奏曲(7.1.4)」、神谷世那さんの録音「ベースノイズ(環境音)の3D Audio録音手法」、本学ライブ配信チームが収録し、古田晏悠さんがミックスを担当した、名古屋芸術大学フィルハーモニー管弦楽団 第12回定期演奏会 ヘンデル/デッティンゲン・テ・デウム ニ長調 HWV.283の「オーケストラ 7.1.4ハイトマイク(HL-HR)の方式の比較」の3作品を試聴、講評を行いました。3作品とも、2chステレオとの違い、セッティングの違い、マイクの違いを比較して聴きくらべできるようになっており、実験的要素がある作品です。両講師からは、制作者としての感想と実践的なアドバイスがありました。テーマの選定と録音した内容に、両講師から感心する言葉が聞かれ、また、同じ制作者として立場からの発言もあり、和やかな講評会となりました。  講座は時間を延長して行われ、終了後にも講師陣に質問する学生も多く、実りあるものとなりました。

2023.11.22

テキスタイルデザインコース卒業生主宰の若手のテキスタイルデザイナーが発信する展示会「NINOW」、一宮「BISHU FES.」にて開催

テキスタイルデザインコース卒業生主宰の若手のテキスタイルデザイナーが発信する展示会「NINOW」、一宮「BISHU FES.」にて開催  2023年11月11日(土)、12日(日)の2日間、一宮市で開催された毛織物の魅力をPRするイベント「BISHU FES.」にて、テキスタイルデザインコース卒業生の小島日和(こじまひより)さんが主催する展示会「NINOW」を開催、尾州で活動する若手のテキスタイルデザイナーの作品を展示・販売、トークショーを行いました。テキスタイルデザイナコース学生と卒業生も参加し、繊維業界関係者との交流を深めました。  「NINOW」は、小島さんが2017年にはじめ、高齢化が進む繊維産地の技術や知恵を受け継ぎ活性化しようと、産地で活動する若手のテキスタイルデザイナーが自ら発信する展示会です。これまで東京で6度開催され、今回、一宮の「BISHU FES.」にあわせ、一宮市の協力でオリナス一宮にて開催されました。  参加作家は、ササキセルム株式会社 酒匂美奈さん、国島株式会社 森遥香さん、日の出紡織株式会社 横田和磨さん、中伝毛織株式会社 吉野陽菜さんと、そして自身のブランドterihaeruの小島さんと、企業の枠組みを超えて5名のデザイナーの作品が展示されました。  12日の午後には、トークショーが開催され本学テキスタイルコースの学生、卒業生、業界関係者が多数集まりました。  トークショーでは小島さんがファシリテーターを務めデザイナーがそれぞれ映像とともに作品を紹介し、どうやって尾州を知り働くようになったか、実際に働くようになってどう感じるかなど、現在働いている若手の生の声を伝えました。尾州を知ったきっかけでは、実際に生地に触れて感動したことやウールに限らず綿やリネンなどさまざまな素材を織っていることなど、それぞれが感じている魅力が語られました。働いていて感じることは、高齢化の問題や産地が縮小している現状の問題が上げられましたが、ポジティブな意見として会社の枠を超えて横のつながりが深く、そのことが嬉しいといった声も聞かれました。  質疑応答では、アパレル業界全体に対する厳しい意見や具体的に低賃金の話題が出るなど白熱したものになりました。小島さんは、こうした問題も含め産地の現状と製品の魅力を若手が発信を続けていくことに意義があるとまとめ、販売を手がけているという来場者からも応援していきたいとの言葉が聞かれました。  来年4月から尾州で働くことが決まったテキスタイルコース 4年生にトークショーの感想を伺うと、佐藤陽里(さとうひより)さん(宮田毛織工業株式会社に就職)「若手でも作ったものが全国に広がっています、早い段階でそういった業務に携わることができることに魅力を感じています」、石橋実祐(いしばしみゆ)さん(カワボウ繊維株式会社に就職)「就職が決まってから業界紙の繊研新聞を送っていただいて読んでいますが、実際に生地を見たりお話を聞けたことが本当に良かったです」、中西桃子(なかにしももこ)さん(伴染工株式会社に就職)「私が入る会社は新卒を採るのが初めてで会社からも同世代の従業員がいないことを心配されたり尾州自体若い子が少ないことを不安に思っていました。でも、この場所では若い人も多くこうした機会もたくさんありそうで、すごく安心しました」と、それぞれに将来への希望と抱負を語ってくれました。  トークショーが終わった会場では、扇千花教授を中心に、テキスタイルコースの学生、尾州で働く卒業生、また、業界関係者が集まり交流が図られました。企業からの若手を望む声とともに、小島さんからの「悩むようなことがあったらいつでも相談して!」と心強い言葉が印象的でした。尾州産地を盛り上げたいという気持ちの伝わるイベントとなりました。

2023.10.18

特別客員教授ヒグチアイ氏特別講座 学生のアレンジ、演奏で新曲「この退屈な日々を」レコーディング

特別客員教授ヒグチアイ氏特別講座 学生のアレンジ、演奏で新曲「この退屈な日々を」レコーディング  2023年9月28日(木)、東キャンパス2号館にて特別客員教授 ヒグチアイ氏による特別講座「やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか~実践~」を行いました。  今回の講座は、2023年6月に行われた講座の最後で発表された新曲「この退屈な日々を」を、学生のアレンジ、演奏でレコーディングするものです。プロの現場を学内で再現、学生が自由に見られるようにするもので、文字通り実践的な内容となりました。  「この退屈な日々を」は、2023年10月劇場公開の映画『女子大小路の名探偵』に主題歌として書き下ろされた作品。あらかじめ録音されているデモ版のヴォーカルトラックを生かし、演奏部分を新たに録音、置き換えていく作業となります。  アレンジを担当したのは、音楽総合コース 4年 首藤蒼門さん。「やりたいことを思いきりやってみました」と語るとおり、パートによってはかなり複雑なアレンジとなっています。演奏は、ピアノ 3年 棚澤実尋さん、ドラム 3年 清水碧斗さん、ベース 4年 パクジファンさん、ギター 3年 カクさん、パーカッション(コンガ) 2年 関谷百加さん、コーラス 2年 天音さん、ストリングス 2年 村瀬芽吹さん、2年 齋藤麻生さんと、プロフェッショナルアーティストコース、弦管打コース、ポップス・ロック&パフォーマンスコース、サウンドメディア・コンポジションコースの学生らによる編成で、音楽領域の総力をあげての取り組みとなりました。録音は、サウンドメディアの学生が行います。ピアノは大アンサンブル室、その他の楽器はレコーディングスタジオ、コンソール室は見学の学生も出入り自由とし、ヒグチアイ先生と演奏者とのやりとりも見られるようにしました。さらに、各レコーディングブースとコンソール室とやりとりの映像も2号館ホワイエに大型スクリーンを用意し、多くの学生が見られるように設置されました。これらは、サウンドメディアコースの学生らが設置、ふだんから演奏会の配信を行っている経験が生かされました。  レコーディングは、デモ版のヴォーカルに合わせ、まずはピアノ、ドラム、ベース、ギター、パーカッションを録っていきます。一斉に演奏して録りますが、もともとのデモ版とごくわずかなズレがあり、グルーヴ感がもうひとつ。クリック音よりも一緒に演奏しているドラムの音やヴォーカルに合わせる指示が入り、録り直していきます。何度か試すうち、心地良いグルーヴ感が生まれてきました。ここからは、楽器それぞれでやり直したい部分だけを演奏し、差し替える方法で修正していきます(パンチインレコーディング)。コンソール室と演奏者で合意できたところでOKテイクとなります。このやりとりが、実際のレコーディングと同じもので、プロの現場を見るような臨場感でした。  演奏に参加したドラム担当の清水さんは「自分にとって2度目のレコーディングがヒグチさんの楽曲で緊張しました。スネアの音にはこだわりを持って演奏しています。ぜひ、聞いて下さい」とコメント。ベースのパクさんは「アレンジが複雑でフレーズが難しかったけど、アレンジの意図をいかせるように演奏しました」、ピアノの棚澤さん「みんなに迷惑をかけないようにと緊張しました」と、良い緊張感を持ちつつ楽しく演奏できたようで、それぞれが充実した笑顔を見せてくれました。  基本の楽器がOKとなり、続いてストリングスとコーラスをレコーディング。同じように全体を録音して、修正部分をパンチインする形で収録しました。  最後のパートは、スタジオに入りきれる人数が集まってクラッピングを録音。皆、大はしゃぎでレコーディングは終了となりました。  3時間あまりと、こうしたレコーディングとしては異例の短時間での収録となりましたが、無事に形にすることができました。演奏した学生ら、また、スタッフとしてのサウンドメディアコースの学生らの集中力が功を奏しました。  最後に、完成した曲を皆で聴きました。ヒグチ先生からは「『やりたいことと得意なことのどちらを仕事にするのか』ということで、2回の講義を行いましたが、好きなことや自分の得意なことに対して柔軟な気持ちでいることが大切。環境が変わっていき、音楽が好きでないかもと考えてしまったりすることもあります。私自身、人に喜ばれることや、人から必要とされることに喜びを感じ、現在も音楽にかかわっています。自分に似合うことを見つけ、自分のやり方を探しながらやっていって欲しいです」と言葉をいただきました。  今回、収録された作品「この退屈な日々を」名古屋芸術大学バージョンは、「未決定ですが、配信など何らかの形で聴けるようにします」とのことで、決まり次第お伝えします。